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東京高等裁判所 昭和52年(行コ)24号 判決

控訴人 梁商壽 ほか三名

被控訴人 法務大臣 ほか一名

訴訟代理人 押切瞳 高橋廣 ほか二名

主文

控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取消す。被控訴人法務大臣が控訴人梁商壽、同羅明子、同梁壽子に対して昭和四九年七月二九日付で、控訴人梁洋子に対して昭和五〇年七月一四日付でした控訴人らの出入国管理令第四九条第一項に基づく異議の申出は理由がない旨の各裁決は無効であることを確認する。被控訴人横浜入国管理事務所主任審査官が控訴人梁商壽、同羅明子、同梁壽子に対して昭和四九年八月一六日付で、控訴人梁洋子に対して昭和五〇年七月一八日付でした各外国人退去強制令書発付処分は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら指定代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠関係は、次に付加するほかは、原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

(控訴人ら)

控訴人らの生活等が不法人国という違法行為の上に築かれたものであつても、それが長期間、平穏に継続された場合は法的保護を受けるものであり、違法状態の指弾が永遠に許されるものでないことは、基本的人権として承認されているところである。違法状態の上にも適法な生活が継続される。総ての法分野において時効制度が存在し、総ての違法状態が時間の経過によつて治癒されるとするのは、人権擁護の見地からして余りに当然である。出入国管理制度に時効およびそれと同一の機能を営む違法状態の治癒制度が存在しないすれば、それは憲法第一三条に違反する。

(被控訴人ら)

本邦に在留する外国人は、出入国管理令第一九条第一項に定めるとおり、同令第九条第三項の規定により決定された在留資格をもつて在留するものとされており、在留資格の取得によつて合法的に在留することが認められるのであり、在留資格を取得しないかぎり、違法状態が継続することはいうまでもないから、それが継続する以上、時効の完成または違法状態の治癒はありえない。

また、最高裁判所は、外国人に既得権としての我が国に居住する権利はないと判示しており(同裁判所昭和四八年一〇月一八日判決)、控訴人らが主張せんとする既得権を否定している。すなわち、外国人の出入国および滞在の許否は、国家が自由に決定し得ることがらであり、この原則は、国際慣習法上もまた判例上も確立されているものである。

(証拠)〈省略〉

理由

当裁判所は、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなくこれを棄却すべきであると判断するものである。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の理由と同じであるから、その説示を引用する。

控訴人らの当審における主張について判断するに、本邦に不法入国し、そのまま在留を継続する外国人は、出入国管理令第一九条第一項に定める同令第九条第三項の規定により決定された在留資格をもつて在留するものではないから、在留の継続が違法状態の継続にほかならず、それが長期間にわたつても法的保護を受け得るとはいい得ないし、また何らかの既得権を取得するものとも解されない。したがつて、控訴人らの当審における主張は、その他の点につき言及するまでもなく採用するに由ない。

次に、控訴人らの強制送還によつて、控訴人らが本邦において築いた生活基盤を失うこととなるが、控訴人梁商壽は昭和九年一二月七日、韓国済州道において出生し、以来本邦に不法入国するまで引続き二九年以上、控訴人羅明子は昭和一九年一一月四日、同じく済州道において出生し、以来本邦に不法入国するまで引続き一六年以上、いずれも韓国において就学、従軍、稼働等長期間にわたつて生活してきたものであり、その余の控訴人らは、右控訴人ら夫婦間に本邦において出生した子女であること、控訴人らの親戚は本邦より韓国に多く居住していることは、原判決の認定するところであつて、右控訴人らの年令およびいずれの控訴人も健康体であると認められること(この点は、〈証拠省略〉に弁論の全趣旨を総合して認められる。)を合わせ考えると、控訴人らが韓国に強制送還されても自活が不可能であるとは考えられないから、被控訴人法務大臣が控訴人らに対し、在留特別許可を与えなかつたことをもつて、控訴人らの生存権の否定につながるような甚だしく人道に反するとか、著しく正義の観念にもとるものとは、とうてい認め難い。

なお控訴人らは、日韓条約締結の昭和四〇年以前の入国者については、右条約締結前には本邦への入国が合法的に果たし得なかたつ点、本邦における居住期間およびその後に確立された生活基盤等から特別の事情が存在しない限り、特別在留許可が与えられる連用がなされており、しかも右運用は、韓国政府との間で外交的にも正式取決めがなされるような情勢下にあるから、控訴人らについても特別在留許可がなされるのが原則であるところ、それを阻害すべき特別な事情は何ら存在しないのに許可しなかつた被控訴人らの本件処分が無効であることは、明白である旨をも主張するようであるが、〈証拠省略〉によれば、日韓条約締結前には韓国から本邦への入国が合法的に果たし得なかつたものとは認められないうえ、控訴人ら主張の特別在留許可を与えるべき運用基準が存在すること、および近い将来、右運用基準を外交的に取決める情勢下にあることを認めることのできる証拠はない。

以上の次第であるから、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴をいずれも棄却し、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺一雄 田畑常彦 丹野益男)

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